外国人への社会保障の責任主体に関する意識調査-医療・教育・福祉従事者を対象として-

 日本において外国人の社会権や生存権の保障を考える上で、まずは市民の感情意識を把握することは重要な課題であると考える。日本では外国人への社会保障責任主体は基本的に居住国ではなく出身地である本国にあるという姿勢を取りながら、実際の制度運用場面においては定住外国人に限り制度を「準用」するという一方的な行政措置の範囲で彼らの生活を保障している。これまでの論争では憲法と判例をもとにした議論が中心であり、それを基に国や自治体がどのような立場を取るのかに重点が置かれてきた。一方で「国民」や「市民」が外国人への社会保障の責任主体に関しどのような考えや立場を取るのかについてはいまだ明らかでない。これまでの先行研究においても外国人への社会保障の権利や責任主体について市民を対象に意識調査を試みた研究はほとんど見られない。本稿は、日本における外国人の生存権と最低限の社会保障の責任主体に関して、国や政府の姿勢について検証するとともに、いまだ明らかでない一般市民の意識や感情に着目する。一般市民の中でも特に何らかの困難を抱えた外国人に関わることが想定され、最前線で生存権や社会権の保障に携わる15歳以上の医療・教育・社会福祉業の従事者を対象に、外国人への最低限の社会保障の責任の主体に関する個人の感情(意識)を明らかにすることを目的に、webアンケート調査を実施した。一言で「外国人」と括るのではなく、前述したようにニューカマーの増加により様々な背景の外国人が混在する今、本稿では、①永住者・定住者・特別永住者、②高度人材・研究生・留学生、③技能実習生・単純労働者の3つのグループそれぞれの社会保障責任主体に関する市民の意識に着目している。
 調査内容は基本的属性および、外国人との関わり、外国人の受け入れおよび生活保護受給、外国人への社会保障の責任主体に関する認識という3つの主要項目で構成されている。各主要項目の詳細な質問内容は表1の通りである。

表1 主要な質問内容

F1. 基本的属性
Q1. 外国人との関わりについて
 ・外国人と関わった経験の有無
 ・支援の現場(職場)で外国人と関わった経験の有無
 ・外国人への対応場面での困難について
Q2. 外国人の受け入れおよび生活保護受給について
 ・外国人への差別や偏見について
 ・外国人の自治体レベルでの受け入れについて
 ・外国人の生活保護受給について
Q3. 外国人への社会保障の責任主体について
 ・外国人(①永住者・定住者・特別永住者、②高度人材・研究生・留学生、③技能実習生・労働者)への最低限の社会保障の責任主体について
  ※日本(居住国)、出身国、本人/家族それぞれの責任の大きさについて5段階で評価

 調査の結果明らかとなったことは、まず外国人の社会保障に関しては「自己責任」が強く認識されていることである。ただし、この点に関しては困窮に陥った日本人に対しても同様に自己責任論が主張される傾向が強く、外国人に対する認識とどの程度の差があるのか、本研究では比較することができないという限界点を持つ。さらに、外国人の属性によって社会保障の責任主体に関する意識に差があること、外国人の生存権の保障、つまり社会保障の責任主体は、国や政府の見解と同様に日本ではなくまず出身国にあると認識されていることが明らかとなった。外国人が日本の一市民として、権利主体として認められるにはいまだ多くの障壁が待ち構えている。しかし、1人の人間の生存権が認められていないという現状は、このまま見過ごして良い問題では決してない。日本では今後も外国人労働者の受入れを積極的に進めていくことを明らかにしている。一人の人間を受け入れるという行為には本来受け入れ側には責任が伴うべきであるが、困窮に陥った外国人がどのような背景で、日本においてどのような経験をし、偏見や差別の実態はどうなのか、いまだ多くが明らかでない。今後は受け入れたその先の人間としての権利や保障に関し、さらに追及していく必要があると考える。

研究員:松田郁乃