2023年度 国際交流事業報告

 橋本財団では、2023年4月より、月に1度のペースで定期的に外国人介護士との交流会を行っている。以下は、その活動記録である。

1.活動報告

 当初は、岡山市南区の法人に勤める日本語教師からの「外国人介護士の皆の日本語能力を向上させるには、様々な人々が話す日本語を聞く事が大切だ」というコメントや、外国人介護士受け入れ担当者からの「外国人介護士と地域との関わりは殆どない」という話を受け、せっかく日本に来ていて、職場以外での地域交流がままならないということであれば、同世代の日本人達との交流場所をセッティングすることから始めようと、岡山のいくつかの大学のメンバーから構成されている国際交流サークルの協力を得て、交流会を開始した。
 2023年3月、同法人にて外国人介護士に交流のニーズを聞いたところ、「同世代の日本人と是非交流したい」、「職場では日本語を話す機会がないので日本語を使う機会が欲しい」、「料理を作ったり、互いの文化を学ぶような活動を行いたい」という希望があり、この交流会が始まった。

日時場所参加者人数
                  活動内容
3月9日法人本部7名今後の活動の打ち合わせ 
日本人との交流のニーズがあるのか、どのような形での交流をしたいかを話し合った
4月8日旭川河川敷9名花見
ちょうど選挙のシーズンで選挙カーが来る。お互いの国の選挙の話なども行う
4月15日つくぼ片山家6名花見
つくぼ片山家でのイベント参加、倉敷美観地区を見学
5月20日つくぼ片山家13名柏餅とチマキでこどもの日(おとなも楽しむ日)
柏餅やちまきを食べ、地域に住む高齢者の方々も加わり、皆で卓球や福笑い、お手玉、
けん玉など昔ながらの遊びを行った
かぶとを新聞紙で折って作り、こどもの日の由来についての話を聞いた
6月17日つくぼ片山家4名茶道体験
6月25日西ふれあいセンター22名ベトナム料理を作って食べる会
チェ、フォー、ベトナム風野菜炒めを作成
今回からNPOチーム岡山まぜごはんのメンバーも参加
7月15日つくぼ片山家3名能楽体験
7月23日姫路城16名姫路城を見学し、ランチを頂く
参加者は日本語が話せるいい機会であったと喜んでいた
8月26日旭川河川敷8名バーベキューと花火
旭川河川敷でバーベキューと花火を行った
ミャンマーの人々には初めての手持ち花火体験となっ
11月11日
西ふれあいセンター
16名ミャンマー料理を作って食べる会
牛乳かんのようなデザート、温かい麺料理と冷たい麺料理を作成
夜勤明けの人も手伝いに来てくれて、大盛況の中終了

 1年の活動の中で、国際交流サークルの人々と外国人介護士との間で、彼ら同士で広島に遊びに行ったり、LINEのやり取りをしたりなどという個人での交流が見られた。また、「この料理イベントを以前から本当に楽しみにしていた」という言葉などから、外国人介護士にとって自分の文化を日本に紹介するいい機会になっている事が伺える。また、会を追うごとに、他の事業所で働いている外国人介護士や、外国人との交流を活動にしているNPO法人の人々が参加してくれ、彼らの主催するイベントの告知を行ってくれたりなど、交流の輪が少しずつ広がって来ている。
 反省点としては、毎月手探りでの交流イベントになってしまい、十分な準備が出来ないまま行うこともあったことである。次年度からは年間計画を立て、予約が必要なものを前もって準備出来るようにしたり、地域の公民館やNPOなどとも連携して開催出来るような交流会へと発展させて行きたい。

2.参加者の声(ヒヤリング内容報告)

 2023年12月19日および20日に交流会へ参加した外国人介護士5名の協力を得て、交流会や日常生活に関する聞き取り調査を行った。以下がヒアリング内容と抽出テーマである。

   質問事項            抽出テーマ
岡山/日本に来た理由 天気が良い・災害がない/静か/便利/口コミを見て/給料が良い
今の仕事について 岡山弁での会話と漢字の読みが大変/日本語を話す機会がない
コミュニティについて ともに日本に来たメンバーが日本各地に散在→岡山でのコミュニティの不足
地域の人との関わりについて 関わりはまったくない/どういう人がいるかわからない/寂しい/
 話す機会がない
これまでの交流会について 楽しい/同世代との会話で日本語の勉強になる/初めての経験
今後の交流会について 旅行/国の文化を知る遊び/より深いコミュニケーション/
 地域ボランティア・イベントへの参加/日本料理体験
岡山/日本への定住について 定住意思/安全/生活への適応
※実際の参加者の声はこちらから ⇒ PDF

 ヒアリング結果をまとめると、まず岡山には同出身国のコミュニティが不足していること、日本語を話す機会も現状は不足していることがうかがえた。地域住民との関わりについては現在関わりはまったくなくお互いに「顔の見えない存在」となっている様子が見られる。これまでの交流会は参加者にとって同世代の日本人との出会いや日本語を話す機会の場となっており、普段は話すことのない好きなことや趣味について日本語で話せる楽しい場となっていることがわかった。今後の希望としては、旅行やゲームなどを通して日本人とのより深いコミュニケーションを希望している。また、地域の人との交流意欲、地域社会への参加意欲も見られるが、現状はその手段、方法がわからない状態であることがうかがえた。

3.国際交流・地域交流の意義

 岡山県美作市の事例をもとに外国人技能実習生と地域住民の”顔の見える”関係構築について考察を行った二階堂(2019)によると、国際交流の意義を述べる上でまず技能実習生が地域社会において”可視化されにくい”存在であることを指摘している。その主な理由として1)監理団体および受け入れ企業に「日本での滞在期間は仕事に専念して不要なトラブルは避けてほしい」という共通認識があり、それにより生活に対する制約が生じていること、2)そもそも技能実習生は日本での滞在期間が限定されており、短期間での相互に安定した関係を形成することが困難であること、3)移動手段がほとんど自転車であり、互いに顔の見える関係を構築することが困難であることを挙げている。また、そういった技能実習生の孤立化だけでなく、受け入れ企業もコストの負担や公的支援策の不足により孤立化に陥りやすいことを指摘している。
 こういった問題点が指摘される中、美作市では公民協働組織である美作日越友好協会により交流活動を促進しており、日本人住民に実習生の存在を認知してもらい社会参加を果たす機会を設けている。こうした積極的な取組により、地域住民が実習生の存在を認識、理解を得ることで企業も存続と発展を図ることができる。実習生の受け入れは個別の雇用対策に留まるのではなく、自治体の産業活性化政策、かつ人口増加政策でもあること、また、技能実習生や就労先企業の孤立を防ぐ方策にもなりうることが美作市の事例からうかがい知れる。
 また、国際交流の意義はこれまで”異文化交流”、”地域・企業の活性化”、”国際化を担う人材育成”などホスト(企業、地域)側のメリットを中心に述べられる傾向にあるが、ここに欠如している点、重要な点は当事者の観点である。これまでのように交流の対象ではなく、”共生する存在”として認識を転換する必要がある。当事業ではこの点も重視しており、定期的に当事者へヒアリングを行いながら、彼・彼女らに交流意欲・社会参加の意欲があることを確認している。また、近年では地域付き合いや社会参加は日本人も同様に薄れてきていることが指摘されるが、外国人が孤立した場合、その後何らかの生活的、社会的困難に陥ってしまった際には日本人よりも数倍高いリスクにさらされる可能性があるが、この点は受け入れ側、当事者ともに認識されにくい点である。こういったリスク防止の観点からも交流の意義があると考える。

4.今後の方向性について

 受け入れ企業、地域社会、当事者ともに交流の意義があることが改めて確認できたため、今後も交流事業は継続していきたい。財団の役割としては、これまで通り、日本文化を知り日本語を学ぶ、日々のストレス緩和、生活の質向上といった観点から月1回程度の交流会を企画する他、今後はさらに地域での可視化、偏見の緩和といったねらいから、地域ですでに行われているイベントや活動への告知・参加を積極的に促していきたい。

研究員:松田郁乃、坂入悦子