岡山県における外国人介護士の職場や地域においての経験

近年、西洋諸国にとどまらず、他のアジアの国々の人口も高齢化していることもあり、外国人介護士の獲得は競争状態にある。そのような中で、各国が外国人介護士をどのような待遇で迎え、どのように地域住民との共生を目指そうとしているのかについては、それぞれの国によって様々な違いがある。例えば外国人介護士が家族と一緒に滞在出来るようなビザを発給、地域移行の為のプログラムや語学学習の支援、永住への道を開く国がある一方、家族の滞在を許可せず、永住権への道も開かず、あくまでも短期での労働力として迎える国もある。現在、日本の介護の現場でも技能実習制度や、EPA、特定技能など、様々な制度で外国人介護士が働いている。そのような外国人介護士達は日本の地域に移行、生活する中で、あるいは介護の現場でどのような経験をし、どのような事を課題と感じているのだろうか?

1.外国人介護士と彼らの地域での経験
地方において外国人介護士の受け入れの問題を考える際に、(1)地域 (2)施設(3)個人という3つの場面での課題を明らかにし、それらの課題の解決に向けての実践が必要となる(熊谷、2018)。しかし、地域においては外国人労働者の存在はまだまだ見えにくく、彼らの存在が見えにくい要因として、二階堂(2019)は①地理的要因(技能実習生同士は散在して暮らしている為)②管理団体や企業、施設による技能実習生同士の関係性構築の防止(技能実習生の失踪を防ぐ為)③技能実習生の地域社会での生活への制限(地域住民とのトラブル等、文化の違いからくる問題を防ぐ為)④技能実習生がエスニックコミュニティを形成しにくい制度(滞在年数の制限や、家族の呼び寄せ禁止)を挙げている。彼らの存在が見えにくいことから、地域住民との間でどのような課題があるのかという現状把握はますます困難になる。また、外国人労働者の受け入れをめぐる議論があっても、そこには外国人労働者が日本の地域や職場でどのような課題を抱えているのかという外国人労働者当事者の視点が抜けているだけでなく、外国人労働者の受入れ施設と地域との社会資源との連携の少なさも問題となっている。例えば三菱UFJリサーチ&コンサルティングがEPA介護職員を受け入れている施設にアンケートを行った「外国人介護人材の受入環境の整備に向けた研究事業」(2019)によると、EPA介護職員を受け入れている施設における外国人介護職員の生活面に対する支援として、住居の確保や行政手続き、住まいの契約・解約手続き等の支援が9割を超えていた傍ら、地域社会との関連や交流については4割前後に留まっていた。また、受入れ施設と自治体、町内会、国際交流団体、宗教関連の機関など地域社会の社会資源との連携が希薄であったことも明らかになっている。外国人を管理対象や単なる労働力と捉えるのではなく,地域における住民として理解し、彼らの生活環境を整備、維持するための環境を整える事が必要となる。
2.外国人介護士と彼らの職場での経験
外国人介護士を受け入れるにあたり、受け入れ施設側と外国人介護士側はそれぞれどのように受け入れの課題について考えているのだろう。
【受け入れ施設側の感じている課題】
(1)人員不足:外国人介護士に対しての職場研修はベテラン介護士が担当する為、職場の人員に余裕がなくては外国人介護士の育成は難しい。また外国人介護士には生活面での支援が必要となり、過疎地域では、外国人介護士の買い物や病院、駅への送迎など、彼らの生活支援に施設の指導担当者などが業務時間外でも従事するようなケースも見られる。
(2)言葉の違いによる教育の難しさ:2019年1月、神戸市が行った施設側へのアンケートの中では言葉の違いによる教育の難しさ、方言を使用する利用者とのコミュニケーションの問題や、記録を書くことの難しさ、文化の違いの問題等が挙げられていた。
また、外国人介護士側が感じている課題として、Asis(2020)による日本で働くのに有効なビザや労働許可証を取得している外国人介護士(EPA外国人介護士候補者を含む)への聞き取り調査によると、
【外国人介護士が感じている課題】
1.同僚との関係:日本人の同僚よりも多くの仕事量を与えられるが、リーダーシップを取る機会は与えられない。
2.職場での差別:職場で外国人であることを理由に昇進させてもらえない
3.職場でのいじめ:噂話のターゲットになったり、自分と同じキャリアレベルの日本人の同僚から威張られたりする。
4.文化の違い:本音と建て前、先輩後輩関係など、外国人介護士を混乱させる日本の社会的慣習がある。
5.ワークライフバランス:仕事で疲弊してしまい、勤務時間外に趣味活動をする余力もない。
6:言葉の壁:日本語の文章を書く力が十分ではない為、職場での昇進に影響する。漢字の読み書きが最も困難。
7.健康状態の悪化:重い高齢者を介護する中で慢性的な腰痛を経験。特に女性の場合は、自分が同僚よりも年下の場合、重い高齢者を介護するにあたって頼られてしまう。男性の外国人介護士も同僚におらず、高齢者介護の為の機器やロボットの数も不足。
8.低賃金:日本の物価の高さに比べて給料が低く、仕事量に対して適切な報酬が得られていないと感じている。
9.メンタルヘルスの問題:いつも介護をしている高齢者の死が不安やうつ病を引き起こす可能性がある。
10.高齢者との関係:セクシャルハラスメントをしてくる高齢者も存在する。
11.口頭でのコミュニケーションの困難さ:敬語や、丁寧な日本語で話すことは、新しい言語を学ぶようなものである。職場の同僚とのコミュニケーションだけでなく、利用者の家族などとのコミュニケーション能力も必要となる。
12.仕事量の多さ:入居している高齢者を介護するのに十分な介護職員がいない為に仕事量が増える。
ビザの問題:施設で高齢者が虐待されるのを目撃しても、自分のビザに影響があることを恐れて報告出来ない
等が挙げられている。
稲月(2014)によれば、もしも社会のマジョリティが、外国人が権利や福祉サービスを保障する制度の枠からはみ出すことを当然視しがちであれば、当人らもそうした認識を内面化する傾向にあることを指摘している。その結果、そのような社会的排除は隠されやすくなるばかりか、外国人の労働や生活における問題を更に深刻化する事となると締めくくっている。

研究員:坂入悦子