送り出しから受け入れまで~インドネシア人材派遣にみる多様化と制度再編の動向~

要旨

本報告書は、インドネシアから日本を含む諸外国への労働者派遣に関する制度的枠組み、歴史的背景、現地の実態、および制度間の課題を多角的に検証するものである。インドネシアの労働者派遣の歴史は19世紀末にさかのぼり、1970年代以降、政府主導による制度化が進んだ。現在では湾岸諸国や台湾、香港などへの派遣が盛んであり、とりわけ家事・介護分野において女性労働者の割合が高い。一方、日本への派遣は技能実習制度や特定技能制度など複雑な制度構造の中で行われており、派遣費用の高さや手続きの煩雑さが依然として課題となっている。
このような背景のもと、インドネシアにおいては、送り出し機関(Sending Organization、以下SO)、職業訓練機関(Lembaga Pelatihan Kerja、以下LPK)、移住労働者派遣会社(Perusahaan Penempatan Pekerja Migran Indonesia 、以下P3MI)といった制度的機関が並立しており、それぞれ異なる役割と規制のもとで運用されている。技能実習制度と特定技能制度の接続、送り出し機関の認可・監査、送り出し機関連合体(Asosiasi Penyelenggara Pemagangan Luar Negeri 、以下AP2LN)などの連合体の存在など、派遣の質と透明性を確保するための取り組みも進んでいるが、経済的負担や情報格差など、現場での実態には多くの改善の余地が残されている。特に、特定技能制度の導入に伴う認可取得の難易度や、制度間の移行における不整合が問題視されている。
さらに、特定技能制度における「MANDIRI(個人)スキーム」と「P3MIスキーム」といった複数のルートの存在が候補者の準備状況やアクセスに影響を及ぼしており、日本企業との直接契約が可能な体制も整いつつあるものの、現場レベルでは既存のSOやLPKが事実上の支援機関として機能している。また、制度の複雑さが新規参入の障壁となっており、送り出し機関の再編や連携による新機関の設立といった動きが活発化している。
本報告書では制度的枠組みに加えて、宮城県石巻市のゼロコスト漁業人材派遣モデル、仙台育英学園による教育型介護人材育成プログラム、西ジャワ州のインドネシア教育大学のインターンシップ制度など、多様な送り出し実践も取り上げている。これらの事例は、単なる労働力確保にとどまらず、教育・訓練・地域連携を通じた持続可能な人材育成の新たなモデルとして注目される。宮城県や静岡県などの自治体によるインドネシアとの協力関係構築も、地域社会における外国人労働者の定着を支える要素として評価されている。
最後に、本報告書は、労働力の国際移動が制度、教育、および地域社会と深く結びつく複合的な現象であることを強調する。インドネシアと日本の政府機関・民間機関・教育機関の連携により、公正で透明な送り出し体制と、外国人労働者が安心して働き、暮らすことのできる受け入れ環境の整備が喫緊の課題である。今後は、「送り出し」から「定着・共生」までを見据えた包括的な視点に立った制度設計と政策連携が求められる。

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研究員:Andi Holik Ramdani、Waode Hanifah Istiqomah